12月2日午前8時3分『JR20周年号』は函館出発……するはずなのに、どうした? 出発しない。そうこうしているうちに『ハァーハァーヒィーヒィー』言いながら僕らの席を通り過ぎて行く『鉄ちゃん』が。『鉄ちゃん』……やっちゃいましたねー。
丁度時を同じにして僕ら夫婦は新たな問題に直面していた。なんと、お土産をホテルの冷蔵庫に忘れて来たのを列車の中で気付いてしまった。列車を降りようとする妻を制している僕の傍らを、あの『鉄ちゃん』が『ハァーハァーヒィーヒィー』言いながら、通り過ぎて行ったのだった。
更に後で気づくのだが、ここで私達は忘れ物に気をとられて、大事な物を買い忘れていた。大事な物って? 次号に……続かないよ。まだ始まったばかり。
昨日は、昨日で相棒が列車内でお小遣いを一部紛失。函館のホテルに着いてから気付き、JRに連絡して探してもらったが見つからず、非常に悔しい思いをしたばかりなのに、私ら夫婦は相変わらずお惚けなのですよー。早速ホテルに電話して、旭川に送ってもらう事にした。担当のお方、お手数をお掛けしました。ありがとうございました。
『JR20周年号』は、何もなかった様にスルスルと函館駅構内を滑り出し、一路苫小牧経由で網走へ向けて走り出した。
ライブ会場となる最後尾の1号車は、リクライニングシートでゆったり座れる座席車だ。たまたま、この車両には乗客が少なかったので、席を向かい合わせて4席を独り占めにさせていただいた。なんとも贅沢な使い方だ。こんな事列車じゃないと出来ないことだよなー。
列車の中のライブでは揺れと、列車の音と、暖房がライブの敵になる。おまけに音響も無いから、歌う側も聞く側もそれなりの覚悟が必要になる。
細長い客車の隅から隅まで音を届けるのは無理だから、出来るだけ近くで聞いてもらわないと、口パク状態に情けないギターの音にしかならないから、やらない方がいいんじゃない?という状態になりかねない。あーそれなのに、『そんな所で聞こえるんですかー?』という位離れて座る人が居るもんだから、僕らは無意識の内に力んでしまうのだった。
結局、1回目のステージで、すでに喉がガラガラになってしまった。まー別に歌を生業としているプロではないので、細かく気にしなくてもいいのですけど……。おまけに暖房が効きすぎて更に追い討ちを掛けてくるから、たまったものじゃない。そうか、プロがこんな所で歌うはずがないか〜。と、妙に納得して歌う僕達であった。
このままじゃ喉が駄目になる、水を……と探したが何処にも見当たらない……。そうなんです。飲み物を買い忘れてしまった。おまけに、午前11時38分着の苫小牧まで降りられないらしい。それまでに、もう一度ライブがある。とてつもなく、はんかくさい3人組なのですよ。その後私と相棒は、のど飴をしゃぶり続けていたわけで、最悪の時は洗面所で水を飲もうと思ったが、飲めなかったー。
ガラガラ喉のまま、何とか次のライブも無事に終わり、待ちに待った苫小牧駅に列車が滑り込んでいった。停車時間は1分。あらかじめ車内で『鉄ちゃん』の一人にホームにある自動販売機の位置をご教授していただき、その位置に一番近いデッキで待機。ドアが開くと同時に飛び出し、素晴らしいスピードで飲み物をゲット。発車のベルと同時に車内に飛び込んだ。旅って楽しいですねー。何をやっても楽しいんです。列車の旅は本当に楽しい旅なんです。
ライブは3回。アナウンスで客車を指定して聞きに来てもらう。ありがたいことに3回とも沢山のお客さんに聞いて頂く事が出来た。中には、3回全てのライブに来てくれたお客様もいらっしゃった。嬉しい限りです。ありがとうございました。
苫小牧を出ると昼食タイムがやって来る。今日の駅弁は苫小牧駅や南千歳駅で売られている『北の駅弁』だ。ウニ、蟹、イクラ、ホッキ、ホタテ、等北海道の味覚がこれ一つに凝縮されたような弁当で美味かった。
『JR20周年号』は、12月2日午後2時05分に旭川駅に到着。お惚け3人組の旅がここで終わった。近藤車掌さんと『鉄ちゃん』達が荷物を降ろしてくれて、別れの挨拶。
今回の旅では、往復10人の運転手さんと8人の車掌さんが関わっているいるという。結構人手が掛かっている事に驚いた。しかも客車を牽引したDD51ディーゼル機関車を運転できる運転士が少なく、調整を取るのに手間取ったそうな。そんな裏話を聞くと、なんとなく有り難くなってくるんだよなー。
出番がなかったが、昨年の『リバイバル特急おおとりと北海の旅』に引き続き、この『リバイバル急行大雪号とJR20周年号の旅』を撮影してDVDとして発売するらしいのだが、その撮影スタッフが昨年同様、列車に乗り込んだり、或いは車で先回りして撮影したりと大忙し。来年も機会があれば、お会いしましょう。
ホームに降りて改札に向かいながらそんな事を考えていると、網走からのご夫婦を思い出した。そういえば今日は一度もお会いしていない。列車がホームを離れる前に挨拶をと、小走りで寝台車に駆け寄ると、2人仲良く話をしているようだった。窓を軽くたたいて頭を下げたら、とても嬉しそうに手を振ってくれた。『お元気で』と声を掛けて後ろに下がると、隣の席の乗客も皆手を振ってくれていた。
列車の旅での出会いと別れ、嬉しく、楽しく、ほんの少しセンチメンタルにしてくれた。来年、もし同じ企画で『リバイバル急行大雪号』が網走から函館を走る事があったら、この旅で出会った人達に会いたくて、また新しい出会いに期待して、弁当自前でも良いから、乗ってみたいな。
旅を終えてから、2週間が過ぎようとしている。旅で出会った人達との心の触れ合いは、私の心を十分に温めてくれた。飛行機も旅の便利な移動手段だが、列車の旅は忘れかけた何かを思い出させ、人や街のぬくもりを感じる、温かい旅になる事は間違いないだろう。
先日、ふとしたことから、ヤフーのオークションで見つけてしまった。『リバイバル急行大雪・JR20周年号記念乗証&オレカ』等が取引されているのだ。驚きました。こういう世界がある事を知らなかった。
注目度が高いのかとグーグルで『リバイバル急行大雪』で検索すると沢山出てきた。特に列車を撮影している方々のブログや書き込みが多い。これまた驚きだ。しかし、今回の旅で何となくだが、気持ちが分かるような気がしてきた。鉄道ファンの数がどれだけかは分からないが、『鉄ちゃん』、広い意味での鉄道ファンの皆さんとともに、勝手に盛り上がって、色々な形で鉄路を応援して行きたい。そんな気持ちになっている。合理化、合理化で何でも無くしていくと、気付かない内に人の心の温もりまで無くしているかも知れない。
終わり。