半額は100ポイント
左下に5ポイントで解約金と打ってみた。 1月19日の朝日新聞に「もっと知りたい『携帯広告極小文字に警告』」という記事が載っていた。見出しが100から200ポイント文字で「みんないきなり半額!」と記し,解約金のことは5ポイントで表記していたという。
この解説メモで文字の大きさの単位ポイントを0.3514mmとしていたのが,気になった。私もポイントの換算数値は0.3514mmと暗記していた。ところが,コンピュータで組版するようになってどうも違うことに気づいた。第一に機械がインチでできている。ソフトウェアで補正されているのだが,長くなると誤差を生じてしまう。それらを加味しても0.3514mmでは合わない。調べていくうちに1/72インチであることがわかった。この数値で計算するとしっくりいく。つまり72ポイントを10文字並べると254mmになる。1ポイントは0.3528mmである。JISで1ポイントが0.3514mmなのは鉛の活字が冷えて小さくなるからではないのだろうか。今では新人には1ポイントは1/72インチ0.3528mmと教えている。
JISで定めているから正しいとも限らない。漢字の字体のことでVISTA問題が起きているが,これはJISが強いのではなく,採用したMicrosoftが強いのであった。OTFもADOBEも蚊帳の外である。
さて,この朝日新聞の記事は間違いである。この広告版下がDTPで作成されているならこのときのポイントは0.3528mmである。単位を変えることの出来るソフトウェアもあり,Qを好んで使うオペレータも多いのでQで作成しているかもしれないし,もし写植で作った版下なら確実にQを使っているので公正取引委員会の表現も間違いとなろう。ただ,問題はその大きさのかけ離れた違いということなので,本質は変わらないので良しとしよう。(Qは写植の単位で1/4mm。)
この見出しと本文の文字の大きさをジャンプ率といい,紙面の品位,訴求効果を表すバロメータになる。通常文芸誌は2倍以内,グラフ誌は6倍から10倍,スポーツ新聞でも20倍くらいだから,この携帯の広告は実に大きなジャンプ率で,訴求効果どころか偽装効果だと公正取引委員会は判断したのだろう。
ジャンプ率は初心者が紙面を組み立てるのによい指針となる。本文が9ポイントなら文芸誌の一番大きな見出しは18ポイント,中見出しは12ポイントという風に選べる。これを24ポイントもの見出しで小説のタイトルを組んだりすると,週刊誌じゃないよと怒られる。
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低ジャンプ率の例 本文12Q見出し20Q | 高ジャンプ率の例 本文12Q見出し112Q |
活版 | 写植 | ポイント |
初号 | 62Q | 42p |
1号 | 38Q | 26p |
2号 | 32Q | 22p |
3号 | 24Q | 16p |
4号 | 20Q | 14p |
5号 | 15Q | 10.5p |
| 14Q | 10p |
| 13Q | 9p |
| 12Q | 8p |
6号 | 11Q | 7.5p |
7号 | 8Q | 5.5p |
活版活字の代用する大きさ。
5号から6号までの間は
ポイント活字で補っていた。
写植は,固定された拡大率のレンズを交換して文字の大きさを変えていたので,半端な大きさは使えなかった。それより前の活版時代は母型に鉛を溶かして作っていたので母型にある大きさしか使えなかった。号数活字は初号と1号を基準に初,2,5,7または1,4,3,6,8,と1/2の等比数列状に大きさが定められています。変な文字の大きさは使わず,これらの大きさを見出しに使うと品のいいバランスのとれたページができる。
こんなことを考えながらDTPに取り組んでみよう。ジャンプ率を中庸にとるとバランスのとれた紙面になる。品格を上げるにはジャンプ率を低めにし,活発な紙面を作ろうとしたら思い切ってジャンプ率を大きくとる。活字の大きさの選び方でも紙面の顔色が変わっていく。
活版の頃は活字そのものよりかなり文字が小さかったので,本文に5号をよく使った。振り仮名は本文5号の1/2の活字を使うので7号(5.5p)を使い,この活字の大きさを別名ルビと呼んだ。振り仮名をルビと呼ぶのはこの名残だ。
活版活字はインキを逃がすための傾斜が必要だったため実際の文字(ボディ)が小さかったのではないかと思う。今はかなりボディが大振りにできている。そのせいか本文は9ポイントを使うことが多くなった。また,老齢化の影響か10ポイントの本文が見やすいと好まれてもいる。尚,今でもボディは呼称より少し小さい。そうでなくては隣の文字とくっついてしまう。
歴史に裏打ちされた活字の世界は奥深く味があるもんだ。