NTT東日本北海道支社のお客様窓口が昨年末をもって全部廃止された。電話のことを相談したり受け付けたりする物理的な場所がないということだ。客が来ないので必要がないということだろうが,携帯電話の窓口はどんどん拡大されているのと比べると極端な対応だ。偉容を誇る建物のかつて人が多く出入りした入り口は,フレッツ光の看板で塞がれている。がらんどうではないのだろうが,生気のない建物に新しい看板だけがついているように思える。
私が初めて電話をつけたのは1980年頃。NTTの前身は日本電信電話公社といった。電信とは電報のことである。略して電電公社と呼んだ。公社は国の機関で,職員は準公務員扱い,エリートっぽかった。大きな建物の1階に窓口はあって,新規受け付けや移転の受け付け,料金の支払いなどと札が下げられて,そう,役所の窓口とよく似ていた。
私は仕事を休んで,そこに出向き,新規の申し込みをした。新規申し込みには電話債券というものを買わなくてはならない。電話局に投資をした人が電話を付けられる仕組みだ。債券は売買することができる。窓口の一角に債券購入カウンターが設けられ,地方では係(たぶん証券会社)の人が出張してくる日があって,その日は初めから債券をただちに売却することにして電話を申し込むと,電話取り付け関係費用と債券購入金の合計から当日の債券買取価格を差っ引いた金額を収めることで,手続きができた。記憶では差っ引いて8万円弱の現金を出したように思う。これは電話加入権と呼んだが,私にとって不思議だったのは債券の仕組みもそうだが,それより不思議だったのは,準お役所仕事なのにほとんど書類が出てこないということだ。電話加入権証書なるものは当時はすでになかった。ペーパレスの合理的な仕組みだが,一方で本当に大丈夫なのかとも思った。このところの年金騒動と比べると実に自信ありげだ。「なくなった電話」という話は聞かないので,しっかりしていたということだろうか。電話線という1本の線と電話番号,課金という仕組みが支えてたのだ。
窓口がなくなると,新規の電話はどうやって申込むのだろうか。ネットで調べると必要な書類は掲載しているが,どこに提出するかは書いていない。とりあえず「電話」か「ネット」で申し込むことになるらしい。電話がないし,電話がないからネットも繋がらない人には手立てがない。公衆電話から申し込むというのが答えだろうか。
ついでなので,電話についておさらいする。携帯電話は移動するので,家に置いてある線のついた電話は固定電話と呼ぶ。ファックスは固定電話と同じに考える。
固定電話は大別して電線と光ファイバーに分けられる。家にやってくる線そのものがちがう。
1.電線を使う
(1) 従来型の電話 電話機だけで電話ができる。
(2) ADSL ADSL契約1本で宅内のADSL機器を通して電話とインターネットを同時に使える
(3) ISDN ISDN契約1本でISDN機器を通して一度に電話2回線(番号使い分けには追加番号使用料を要す)とインターネットが使用できる。(NTT商品名:INSネット64)
2.光ファイバーを使う
専用機器を接続してインターネットや電話を使える。
(NTT商品名:フレッツ光)
私の知る限り有線放送を除いて,YahooなどNTT以外のサービスもNTT回線が必要だ。NTTの線の上で多様なサービスを提供している。NTTは回線敷設管理業かと思うとそうでもなく,NTTの電話機など,まだ売っているらしい。窓口閉鎖のNTTのことはまたわからなくなる。尚,基本料金は上記の並び順に高い。
有線放送は,自分で線を張り巡らせており(電柱は借りて),その線を利用してインターネットとつながるようになってきた。追加契約と機器があれば,インターネットも電話も使うことができる。この電話はIP電話として区別される。器具は同じなのだが,一旦インターネットを介してから従来の電話網に繋がっていく。光ファイバー接続の電話もIP電話だ。
固定電話はインターネットやファックスには欠かせない。こうして時折思い出してありがたく思ってみる。
今はほとんどの家に電話があり,新しい電話を申し込むのに不便はないのだろう。核家族も携帯電話が必須だ。昭和40年頃ある教師は転勤した高校のPTA名簿のほとんどに電話番号が書いてあったのに驚き,この高校の父兄はなんと裕福なのだろう思ったという。その頃私の家にテレビはあったが電話はなかった。実に隔世の感がある。
ところで,余っている電話加入権はどうしているんだろうか。電話局預りにしておいても期間は5年,さらにそのままにしておくとあと5年で無効になるという。あの高かった加入権はどうしてくれる。国を上げての詐欺だと言いたいが,誰も同調してくれそうもない。
この文章はメイリオをインストールしたパソコンではメイリオで表示します。私にはとても見やすい書体です。ただし,字体はVISTAと同じくJIS2004です。「飴」が旧字体になっておいしくなさそう!
(嶋福朗記者)