この記事を書くにあたって、断わり書きを一言。私は決してコレクターでもなければ、高給取りでもないし、高級品志向でもない、ごく普通のサラリーマン親爺です。ただ、周りに言わせると軽くこだわる性格のようで、しかも浅く広く中途半端と訳の分からないこだわりを持った親爺のようです。一言で言えば『はんかくさい親爺』と言えるでしょうか。
そんな訳で若い頃から、心に感動を与えてくれた物は、なんでも欲しがったもんです。ラジオ、ステレオ、カメラ、本や絵、楽器、自転車、あー素敵な女性も……現在は伴侶がおりますので、こちらはもういいのですが……。
学生時代に出会ったニューミュージック、一人暮らしの心の隙間にアコースティックギターの音色と歌詞が見事に入り込んでしまいました。あれから30数年、色々な方々に支えられ、今もアコースティックなLIVE活動を続けています。でも人前で演奏するよりアコースティックな音を聞くのが好きなんです。
アコースティックな楽器は、管理にも気を使います。と言っても現実はケースに入れたまま、そこら辺に放ったらかしですが。裸で放っておくと、冬にはえらい目に会いますのでご注意を。
湿度管理でギターが生き返ると教えてくれたのが、ギターショップGSさんです。
4年前に質の良い中古ギターを売っている店があると聞き、興味半分で覗きに行ったのがお付き合いの始まりです。店内を見てオーナーの話を聞いた時には感動しました。アコースティックギターのための店でした。正確には、エレクトリックギターやアンプ類もあります。札幌でも東京でも関西でもこれだけ管理が行き届いた楽器店は見た事がありません。こんなすごい店が旭川に……出来ちゃったんだ……と思いました。
オーナー曰く、
『室温は、東側と南側に窓をなくし、真夏の日差しが入らないようにしています。暑い日は、窓全開で天然の風を入れています。室温は、25度〜28度くらいまでになります。また、冬はストーブを、昼は18度、閉店後は15度に温度管理しています。多量の断熱材により温度をキープしている状態です。湿度も、同様に自動(55%)としています。』との事。
これらの数字がアコースティックギターにとって理想的な数字なのかは定かではありませんが、音の鳴りが良い方向へ向かっているギターが出て来ている位ですから、悪い訳がないでしょう。
落ち着いた照明の店内は、NEWギターや、OLDギターが壁一面に展示され、その全てが最高の環境の中で気持ち良く生きている様に見えました。アコースティックギター好きな人なら、この店内に踏み入れただけで、オーナーに対する大きな信頼感が生まれるに違いありません。ゆっくり時間をかけ自分の好みの音のギターを探す事ができます。ブランドもの以外でも素晴らしい音を出すギターも沢山あるらしいですから。
もちろん店内の環境管理だけでなく、オーナーのギター知識も豊富なようです。リペアも安心して頼む事ができるし、私にとっては良い事づくめです。こんな店が旭川に出来るなんて、旭川も捨てたもんじゃないですよ。しかし、私の様な安月給のサラリーマンにとっては、非常に危険な店になるのです。
今思えば、2007年にわいわいニュースで「愛用のギターをリペアしてみませんか」という記事を書いた私は、その時すでに、強力なGSウィルスに感染していたようです。
結局、感染は2度。2007年の夏と2009年の夏。この店で心を奪われるギターに連続して出会う事になりました。
2007年5月の『わいわいニュース』に登場したギターはGuild D55。ドレッドノートタイプのしっかりした作りのギターです。パワフルで煌びやかな鳴り方は素晴らしく、結婚直前に購入して以来、25年の間に更に熟成された感がありました。2006年の冬に小田島guitarさんでリペアしてもらってから、毎日満足して弾いていたのですが……。
2007年夏のある日、弦を買いにギターショップGSさんに行くと、親方(オーナー自称)が「鳴るギターが入っているよ」とさりげなくギターを差し出してきました。「鳴るギター」といってもそれぞれ個性のある鳴り方をするので、自分の好みに合うギターにめぐり会うのは簡単には行きません。ただ、好みの鳴りのギターに出会うと、心がぐらりと揺れ出し、その内コントロールが効かなくなってしまうからやっかいです。ただ、あまりに高額な値が付いていると、どんなに好みの鳴りでも心が揺れる事はないのですが……。
このギターMartin HD28Vは、手に取った感じは軽くて頼りない感じですが、ジャラーンと弾いた途端に「おっ?」線の細い音だが6弦から1弦まで素直に伸びてとても気持ち良く鳴るのです。Guild D55では得られない高音部の音の伸び。あっという間に感染してしまいました。
しかしその後、迷いに迷う事になります。25年一緒に暮らしてきたギターを手放す事に大きな抵抗がありましたし、ギターの造りが軟弱なのも今ひとつ、しかし気持ちの良い鳴りと音の伸びは十分に魅力的でした。Guild D55を手放さずに買うほどの余裕もある筈もなく、しばらく悩んだ挙句、この店でギターを求める人の手に渡るならと、Guild D55を引き取ってもらう事にしました。心境は非常に複雑でしたが、求めている鳴りに近いMartin HD28Vを購入しました。その後、毎月コツコツと借金を返す日々が続き、もちろんMartin HD28Vはライブでも大活躍してくれて満足な日々が続いていました。
ところが支払完了目前の2009年の夏の日、アコースティックギターを弾きたいという女性が現れ、ギターの購入にアドバイスが欲しいと頼まれました。アコースティックギターが弾きたいだなんて、お勧めのギターショップがあるからと、久し振りにギターショップGSへ……。
当日彼女がギターを決めるまでの3時間、手持無沙汰な私に親方は「良いギターが揃ってるよ」と、色々なギターを差し出してくれます。「また、気に入ったギターに出会ったらどうするのー」と言いつつも、出されるままにギターを弾いて遊んでいたら、運悪く? 運良く? 出会ってしまったのです。うおーーーーーーっ(心の叫び)。
この魅力的なギターHeadway HD-30thは純日本製のギターです。Guild D55ほど音のまとまりや煌びやかさを持つ訳でもなく、Martin HD28V程の音のまとまりや上品さも無いのですが、1音1音芯のあるしっかりした鳴りで、サスティーンが非常に良く、レベルの低い私の演奏でも表現したい音をきっちり出してくれるギターです。
現実を見ると、この様なギターを手にする程のテクニックを実は持ち合わせておりません。ただ、困った事に耳が肥えてしまっていて……。それから心を揺さぶられる音に弱いんです。(^_^;)
後日再度ショップを訪れ、スタジオで一人そのギターを弾かせてもらいましたが、弾けば弾く程このギターと一緒に気持ち良く演奏している様子が目に浮かぶんですよ。気持ちはどんどん固まって行きました。自分には非常に高額なギターでしたが、その後購入まで一切迷いませんでした。
その後、親方の「もう完治しねーよ」と嬉しそうな顔、お母ちゃんの呆れた顔、銀行マンの「これはギター購入の資金ですか???」と驚きの顔、そして相棒の「うそでしょ!」という驚愕の顔を順番に見せてもらいながら、なんとか手にする事ができました。
ギターショップGSの親方曰く「あんたは全治一生です。」だそうです。その通りかな。
ギターショップGSは別名「新型楽器インフルエンザ保有店 GS」と呼ばれ、更に店内で発生するギターの音色は「悪性のウィルス」そのもの。そこに通うお客は「全治一生の重症患者」ばかり……という事で、めでたく私も仲間入りと相成りました。親方自身は「慢性疾患専門(ギター・ホスピス)医院 院長」と自称していますが、実は彼こそが「悪性ウィルス」を増殖させ際限のない感染を繰り返している根源であることに気付いていないのですよ。……簡単に感染する方もする方ですが……。おまけに、この病気に関する保険は無いのです。保険がなければ現金しか頼りに出来ない……何だか訳が分からなくなってきた。
とにかく皆さん、ギターの音色くらいで心がフラフラするお方は、近づかない方が身のためです。……余計なお世話ですが。……
今回は、何故か恥ずかしく感じる内容なので、公開せずにしまっておこうと思っていましたが、もしや同じ様な病に罹っておられる方がいらっしゃるやもと……余計なお世話だなー。……
ご家庭で肩身の狭い思いをしている「全治一生」のあなた。あなた一人が不治の病を患っている訳ではござんせん。ともに頑張りましょう。もう治る事はありませんから。
色々回りくどく書きましたが、旭川にもギターを非常に大切にしている店がある事を お伝えしたかった次第です。(^_^;)
本当に良い店なのですよ。……ギターにとってはねー……。
この文章はメイリオをインストールしたパソコンではメイリオで表示します。私にはとても見やすい書体です。ただし,字体はVISTAと同じくJIS2004です。「飴」が旧字体になっておいしくなさそう!
(おさらっぺのカワセミ記者)