2011年1月29日から2月13日まで高砂酒造の
明治酒蔵をお借りして、旭川街角スケッチ@原画展を開催したところ、多数の方々にご来場いただきました。ありがとうございます。明治酒蔵にある売店に隣接した旧「金庫蔵」をお借りしての原画展、菱谷さんの木版画ともマッチしてたいへん味わい深いものになりました。木版画の白黒はっきりしているところが好きだという菱谷さんの版画はやや暗い蔵の中でも輝きを放っておりました。
雑誌社のインタビューに答える菱谷さん(左端)
作者菱谷良一さんは御年89歳、実にお元気で、買物には車も運転するという。もっとも足が弱っているからだと本人は言っておりましたが。
菱谷さんは古い建物の外観が好きで、木版画にしていたのでした。私どもの企画に直ちに乗っていただき、残っていた刷本はもちろん版木をも持ち出して、若い人に刷ってもらったりして10数枚を揃えていただきました。そのモデルとなった家屋の持ち主1軒1軒を訪問し、来歴を確認、商品化についての承諾を得、絵はがきを出版するに至りました。
市村御殿
会場で客の途絶えた合間にお話を伺っていると、4条通5丁目の今の丸谷病院が建つ前は市村御殿と呼ばれた立派な屋敷が建っていたという話が出ました。私どもの会社が3条通4丁目に引っ越してきた昭和63年に丸谷病院は新築の最中であったから、このころまでは市村御殿が残っていたのでしょうか。
「まちは生きている(下巻)」渡辺義雄編
(総北海刊)p.11
まちは生きている(下巻)によると「市村商店が卓越した商才と時運に乗り、4条5丁目の別宅を大正6年新たに改築した広壮華麗な私邸は当時の市民の目を瞠らせた建物であり、人呼んで市村御殿といわれるほどであった。
建造の翌年である大正7には関院宮載仁親王、同妃殿下、10年には北白川宮成王殿下、更には同12年には久爾宮邦彦王、同妃殿下のお宿として三度その光栄に浴したほどである」という。
市村亀松は丸井今井合名会社の旭川支店長(ふるさとの想い出写真集旭川p30)を辞して商いのぶつからない文具店を起業し、「明治40年代2条8丁目右1号角の紙、文具店より分離拡充し、新に砂糖、麦粉、石油などの卸業を始めた」のは4条7丁目左1であった。大正年間には「4条7丁目か左2号から5号にかけて」店舗を拡大した。
「店主市村亀松は、このほかにも秀栄舎市村印刷所(4条7丁目左1)を併設したり、製紙所(2条2丁目左5)、自転車販売(輪友社)も営み、名実ともに一代にして市村王国を築いたのである。」
秀榮舎印刷所は「33名の従業員が創業、建物、設備ともに旭川第一を誇り、この創立に5万円を投じた大印刷工場であった。」(旭川印刷界のあゆみ)
大正10年の関連会社の倒産を引き金に、「大正14年の暮れも迫る頃、廃業に追い込まれることになった。」
近所の物知りの曖昧な記憶によると、市村御殿はその後、料亭になったり、プリンス自動車の事務所になったり、河原肛門科病院となったという。丸谷病院の副院長の話では、病院建築の頃は御殿もかなり傷んでいたということでした。
中央堂
「まちは生きている(上巻)」渡辺義雄編
(総北海刊)p.122
菱谷さんにとってそれよりも楽しい思い出は中央堂らしい。「なんでもあった。何かというと中央堂に行ったもんだ。」
中央堂は市村商店倒産後大正15年、市村亀松の長男栄一氏により、3条7丁目右10号青山呉服店跡に開店した。右は昭和初期に改築後の写真ということで、ここに菱谷青年が日参していたことが想像されます。今はこの地にオクノが建っています。
さて菱谷さんとも楽しい会話が弾みましたが、原画展も2週間の会期を終えました。場所を提供していただいた高砂酒造には重ねてお礼を申し上げます。また、この企画にあたって、快諾いただいた持ち主の方々、何かと援助いただいた旭川歴史と建物の会川島会長、あさひかわ新聞・北海道新聞にもWEB上ではありますが、厚く御礼申し上げます。
丸谷病院院長激白――市村御殿を潰したのは私です。
私の父が購入する前はプリンス自動車などがいろんな人が使っていたようです。中には木炭でできた(敷き詰めた?)部屋がありました(清浄部屋?)。宮様が愛でたという松があり、切ってはならぬというので神楽岡の母の実家に移植しましたが、残念ながら数年で枯れてしまいました。父はここで小児歯科を開業していましたが、丸谷病院を建てるときに移転して、ここ市村御殿の地に今の病院を建てました。(談)
江口日曜堂店主談―民間の家に皇族が泊まるなど滅多にないんじゃ
それと、買い物公園の文房具を扱っていた市村商店はたまたま苗字が同じだったということじゃ。市村亀松の親族ではないだろう。(談)
この文章はメイリオをインストールしたパソコンではメイリオで表示します。私にはとても見やすい書体です。ただし,字体はVISTAと同じくJIS2004です。「飴」が旧字体になっておいしくなさそう!
(嶋福朗記者)