白樺の新緑が目に眩しい6月の朝。「亡き娘が残した手作りの絵本を本にしたい、相談に乗って欲しい」とご夫婦が来社されました。
ねずみのお花
みつばちのみつばちちゃん
丘と森と動物達
手作りの絵本は3冊、折り紙・クレヨン・サインペンを使って丁寧に作られた心のこもった絵本です。
「お盆にお参りに来る友人の子供達、知人の子供達に渡したい」
「出来るなら、印刷・製本全てを旭川でお願いしたい」
おふたりが希望される「made in 旭川」。とても新鮮な響きでした。話を聞いている内に、何か心に温かく湧き上がるものを感じ、是非形にしてみようと大切な絵本をお預かりする事にしました。
非常に難しいのは製本です。
幼い子でも扱いやすい重さ、本の開きやすさ、耐久性。この3点を柱にすなだ製本の砂田社長と打ち合わせが続きました。
一般的に絵本は見開きの状態で印刷、裏表の合紙(ごうし:紙を貼り合わせる)、糸かがり、ハードカバーの作成、中身の取り付けと一般の書籍とは全く異なる方法、工程で作られます。市販の本は特殊な機械や材料で量産されているのです。少部数のため量産工程ではできません。しかも「made in 旭川」。意地を見せなくては。
製本を担当した汲キなだ製本の砂田正幸社長は絵本職人としての一歩だったと、次のように述べています。
今回の手作り絵本作成にあたっては、私自身にも色々な思い入れがありました。今は機械の中に紙を投入しボタンを押せば誰でも簡単に本が作れてしまう時代、製本職人としての腕を試したく以前から手作り絵本を手がけてみたいと思っておりました。過去に絵本作成の経験はあるものの、本格的に取り組むのは初めてでしたが、ご夫婦の思い「made in 旭川」をお聞きして、難題に立ち向かう勇気が出ました。
紙の目、紙質、のり、刷毛のチョイス、プレスのタイミングなど続出する問題も、本を手にする人、読む人の気持ちになれば自ずと答えが見えてくるもの。機械に頼る事無く全頁ベタ貼りで合紙する方法で、本の隅々までの手作業の中絵本を書いた作者の方、この本を受け取る方の事を思い浮かべながらじっくりと時間をかけて真心込めて作らせて頂きました。
本を作る職人としての一歩を踏み出せた様な気がして、とても思い出深い仕事になりました。何よりお客様にとても喜んで頂けたのが、最高に幸せでした。これからも本の温もり、手作りの暖かさを色々な人にお届けしながら、本作りの素晴らしさを楽しんでいきたいと思います。
試行錯誤を繰り返す中、特殊な糊で本文紙を貼り合わせ、軽く、開き易く、十分な強度の束見本(つかみほん:製品と同じ用紙で作った製本の見本)が出来ました。
後日、ご夫婦に絵本のテスト印刷と束見本をお見せしたところ、テスト印刷には「わあー綺麗な色、娘の絵本の色と同じ、こんな薄い色も出せるんだ、素晴らしい。」
そして束見本には「これは立派だね、こんなに素晴らしい本になるの? とても軽くて扱い易い」と出来上がりに大変喜んで頂きました。
それから1ヶ月後の8月上旬、3種の絵本が made in 旭川 で完成しご夫婦の手に渡されました。1冊、1冊心を込めた手作業で作られる絵本には、砂田社長の熱い気持ちが込められているようです。
まだまだ、改善すべき点は沢山ありますが歩みは遅くとも、お客様に喜んで頂ける仕事を続けて行きたいと思います。
この本は2012年9月15・16日に道北地場産業振興センターで行われる旭川ものづくり博に出展されます。
この文章はメイリオをインストールしたパソコンではメイリオで表示します。私にはとても見やすい書体です。ただし,字体はVISTAと同じくJIS2004です。「飴」が旧字体になっておいしくなさそう!
(おさらっぺのカワセミ記者)